言語道断~昨日のつづき~

 「人の物を盗むとは言語道断だ」

 私たちの普段の生活の中で「言語道断」という言葉、どのように用いているでしょうか。上記のように否定的に使うことがほとんどなのではないでしょうか。でもこの言葉、元は仏教の真理、悟りの境涯をあらわす言葉なんです。

 私の持つ『大辞泉』第二版には、1番目の項目に

1仏語。奥深い心理は言葉では表現できないこと。

『大辞泉』第二版

 とあります。仏教のさとりは、言葉や心のはたらきをこえ、言語の道が断たれた世界です。

 なぜ、言語を断つことが悟りにつながるのか。「お釈迦様は言葉によって悟りを伝えたではないか」と思う方もいらっしゃるかもしれません。そこにお釈迦様のすごさがあるのです。

 「人は言葉によって隔たりを作る」

今月の法語です。私たちは言葉によって物事をくくり、価値判断を作り、線引きをしています。言葉を用いるということは、私たちの価値を物差しに物事を見ることに他なりません。お釈迦様はその言葉を用いて悟りを伝えてくださった。だからこそ、仏教の経典は膨大な数になったのです。様々な価値判断をもつものそれぞれに合わせて、言葉や態度を用いて教えを説いていかれたのです。

 私も、お話をするうえで一つ絶対に使わないように気を付けようと思っている言葉があります。それは、

「皆様よくご存じの」

です。これは、メディアなどでも耳にする言葉ですが、これは居場所を奪う言葉です。ご存じない方がいたらこの一言で疎外感を与えてしまいます。この一言であちら側とこちら側を分けてしまうんです。

 私たちは言葉から離れて生活することはできません。文字や声だけではなく様々な言葉を用いてコミュニケーションをとっています。だからこそ、言葉の本質と向き合っていくことが大切なのだと思います。

-掲示伝道, 日日慶念寺(ブログ)